Newton Tech Japan updated. 2017.6.22

オーディオの"音"について

どういうアンプが音がいいのか, それはどうしてか? という論議はオーディオが始まってから続いていて, おそらく終点はないでしょう。  オーディオの音の前に, 電気を使わない楽器の音についての研究と(バイオリン)と値段の違う楽器をどうやって売っているのか覗いてみましょう。

バイオリンは音質評価の実験が2回行われ, PNAS(アメリカ科学アカデミー紀要)に発表されています。試験方法はストラティバリウスという名声のあるバイオリンと, 現代に製作されたバイオリンを著名なバイオリニストが目隠し(ゴーグル)と匂いも判別できないようにして約1時間自分で演奏して評価するという方法です。


結果は2回とも現代に製作されたバイオリンの方が高い評価を得ました。

最初のテストは2010年に行われ,

1. 21人の著名なバイオリニストにストラティバリウス, Guameri del Gesuの古典的に名声のあるバイオリン3台と現代の比較的高級なバイオリン3台を演奏してもらい評価をしてもらいました。古典的に名声のあるバイオリンは3台で約10億円の市場価値があり, 現代のバイオリンの約100倍です。

ストラティバリウスのような高価なバイオリンはなかなかこの試験のために提供してくれる人がいなくていた変だったようです。また著名なバイオリニストに来てもらったりかなり予算を使った組織的な試験です。

LIVESIENCEホームページより

2. 試験用ゴーグルで目隠しをし顎あてのところに細工をしバイオリンの 匂いもわからないような工夫をしています。

3.通常プロの演奏家はバイオリンを購入するときお店で一台選んでうちに持って帰ってしっかり吟味する, そのようなものを6台の中から選び(take home), そのあと4つの項目で Best とWorstを選択するという試験です。Tone color(音色), Playability(演奏しやすさ, もしくは演奏した時のしっくり感), Response(弦に弓を当て音を出した時のバイオリンの反応, もしくは音の出方), 最後は Projectionという名前の評価項目ですが, これはよくわかりません。(音の伝達性と訳しているサイトもありました)

試験結果:PNSAのホームページより

試験結果は左のようになりました。N1, N2, N3は現代のバイオリン(new), O1, O2, O3は名器と言われたストラティバリウスとGuameri del Gesuです(old)。 歴史的に名器と呼ばれたバイオリンより現代のバイオリンの方がより高い評価を得ています。つまり, "進化"しているという言い方もできると思います。



試験方法, データのとりかた, まとめ方はアカデミックで,有名なバイオリンを所有者と交渉して何日かかりてアメリカのインディアナポリスに集めたり, 著名な演奏家を招集したりとかなり組織的に予算も使った試験でした。


試験方法に電気的特性測定(マイクで拾って)が一項目として入らないのかとも思いましたが, なかなか難しいのでしょうか?と思っていたら, 室蘭工大の学生の卒業研究で見つけました。

(クリックすると論文のPDFがダウンロードできます)



バイオリンの音色に関する研究 高速フーリエ(FFT)法および 意味微分法(SD)法による試み 



a. 2挺(バイオリンの量詞は"挺"のようです)のバイオリンの開放弦(E,A,D,G)を引いてもらい, マイクで拾ってそれをフーリエアナライザーで倍音のレベルを測定してそれの音圧を比較するという試験と


b.音楽を日常的に活動しているグループ(具体的にはオーケストラの構成員)とそうではないグループ(スキークラブのメンバー)にバイオリンの音を聞いてもらい各々のグループで評価してもらうというものです。評価は"暖かい:冷たい", "硬い:柔らかい"というような感応評価です。


この, a,bの測定により高調波成分の違いが音の違いという仮定で下記のように結論付けています。2挺のバイオリンの"素性"については触れられていませんが, 数値化したデーターを "音の違い" と仮定して結論付けていますので, ある意味PNASより科学的アプローチだと思います。

試験方法. バイオリンの音をマイクで拾い,フーリェアナライザーにかけて,高調波成分を比較する
○をつけた高調波成分がバイオリンA, バイオリンBで異なる

以下この論文のまとめです

今回 対象にしたバイオリンの LPS(Linear Power Spectrum)に関する特徴を以下に総括する。

(イ)基本音,あるいはその近傍の倍音の差異については, 個々のバイオリンの音色に大きな影響を及ぼすと考えられ, 音の「芯のある」,「力強い」,「像の明瞭さ」などの標語には一部こうした特徴がふくまれているものと解釈される。

(ロ)高い倍音中に散発的にみられる差異については, 個々のバイオリンの音色において,

「豊かさ」,「厚み」などの標語には一部こうした特徴が含まれているものと考えられる。

(ハ)最高倍音の限界に現れる差異については, 一部上記(ロ)と関係して, バイオリンの音色に「キラキラした印象」あるいはそれと反対に「落ち着いた」感じを与えると解釈される。さらに,最高倍音がある程度を越えて高い周波数にある場合, いわゆる, 「音の裏返り」と関係のある印象を与えるものと予想される。

これらの解釈を確かめるために, 半定量的検討を計画中である。

<室蘭工大 バイオリンの音色に関する研究. 中間岳, 本間俊介, 富士川計吉 より>


それでは, オーディオ界のレジェンドのネルソンパス氏はどう言っているのでしょう。

音に関する記述は大量にあり, どれも客観的に,かつ定量的に測定として検証ができないので, 歴史的に淘汰されることなく現在も続いています。再生されたいい音というのが定義できないため,  "進化"というのも定義できないのがこの世界で, 1960年代の技術で設計された真空管アンプの新製品もいまだに高価格で販売されています。オーディオ界のレジェンドのネルソンパス氏が 2015年 California Audio Fair で アンプの音についてスピーチをしています。スピーチ全文は下記リンクより, またラジオ技術誌に中村吉光氏の翻訳が出ています。

ネルソンパス氏の 2015年California Audio Fair てのスピーチ全文


Pass Lab ホームページより

ネルソンパス氏の講演@ カリフォルニアオーディオショー


詳細は上記リンクよりの全文か中村氏の訳に委ねますが, 要旨は,


1. どの程度の出力が必要か?

95dB/Wの音圧のスピーカで比較的小さな(日本の10畳程度のリビングルーム)で一般的な音量では, 曲の比較的大音量の部分もほぼ1W内に収まっています。

85dB/Wのスピーカだと 10倍の10ワットが必要です。

結論としては, 日本の一般的な部屋で音楽鑑賞用としては出力は10Wあれば, 十分楽しむことができます。


2. 歪率について

出力と共に定量化できるアンプの性能としては歪率があります。第二高調波成分が多いと温かみがあると評価する人もいますし,第三高調波成分が多いとダイナミックさが増したと言う人もいます。歪率の下限値は0.01%ではないかという意見が多くありますが, 私(ネルソンパス氏)も同意見です。アンプは透析機器(浄化装置)ではなく音楽を楽しむものですから, 歪率がこれより大きくても,いい音に聞こえることもあります。 


3. それではどういうアンプがいいか?

シンプルな構成の音楽を日本の一般的なリビングルーム(10畳程度)で隣の人に怒られない程度の音量で聴くのなら 10W以下のA級シングルアンプが適しています。またベリオーズの幻想交響曲を指揮者と同じレベルで聴こうとするなら, もう少し大きい出力と低い歪率のアンプが必要かもしれません。 蒸留水がおいしい水とは定義されないのと同じで(本当においしくない), もっと飲みたくなる水のように定量的に定義はできませんが, パス研では一度聴けばばもっと聴きたくなるようなアンプを目指しています。

インターネツト経由で他の人がどう言っているのかという参考事例はいくらでも入手可能です。それも参考にはなるでしょう。最終的には自分でそのセットを聴き込むことです。








http://www.audioheritage.org より